2022年12月。これから冬本番を迎えようかという寒い季節のある日のこと、私の体に異変が起き始めた。
毎晩風呂上がりに耳かきや綿棒で耳掃除をしているのだが、その日は耳かきを入れて数回掻いたあと、いきなり左耳から汁が垂れ始めた。
私の耳糞は乾燥気味でたまに小さい鼻糞みたいなのが出てくるのが正常。
耳糞を鼻糞で例えるのはどうかと思うが、取れた耳糞を見た瞬間の感想が「鼻糞やんけ！」なので仕方ない。
逆に鼻糞を取った瞬間は耳くそやんけと思わないのはなんでだろうと考えるも、おそらく鼻糞の方が存在として強いからだとの結論に至った。
社会において、特に小学校では人前で鼻糞をほじるのは重罪とされてきたと思う。それに比べて耳糞はどうだろうか。不快を与える可能性が高いとはいえ、罪とまではいかないのだろうか。
これは鼻糞が糞としての不動の地位を確立しているから。Hanakuso is No1…。
”耳糞<<<<鼻糞”の序列がそこにはある。糞の中にもヒエラルキーというものはしっかりと存在するのだということは自信を持って主張できる。
話を戻すと、急に耳だれが出始めた原因は完全にわかっている。完全に耳掃除のし過ぎ。完全に。
毎晩風呂上がりに加えて、昼夜問わず家でリラックスしている時に耳かきもしくは綿棒を耳に突っ込んむことがよくあった。
頻繁に綿棒を出し入れしていることもあり、汚れや耳糞はほとんど取れないのだが、耳に綿棒を入れているだけで落ち着く。
もはや癖になっていた。それが災いして左耳から汁がでてくるようになってしまった。
この時点で後悔すると同時に耳掃除を止めるようとするも、やめられない。
耳から出てくる不快な耳だれを綿棒で拭うだけ、拭うだけ、絶対にぜっーーーたいに掻かないと誓ってから耳に綿棒を入れるものの、そんな約束なんてすぐに忘れて掻いてしまう。
耳だれを拭うだけのつもりが、いつの間にか掻いている。
その掻いている間だけは天国。
うん、、♡あんあっはんんあんはははん♡最高♡気持ちぃえーーやめられねーもうあとなんてどうでもええわ♡
終わった瞬間から激しく後悔が始まる。左耳が痛い。痛い痛い痛い。熱いし、ジンジンヒリヒリする。絶望。
耳だれが出て痒い→拭うだけのつもりで耳に綿棒を入れる→結局掻きむしる→耳が痛い→後悔。
毎日がこの繰り返し。痒みと痛みの狭間で1週間くらいを過ごしていた。
そしてある日、事態は急変した。
朝起きたら左耳が聞こえない。いや僅かに聞こえるのだが、明らかに耳が詰まっている。
そして耳の中が腫れてるいることが触らなくてもわかる。その腫れによって耳に激痛が走っている。頭まで痛い。軽くめまいもする。
「耳痛い」で調べた結果、これは外耳炎と思われる。綿棒のやり過ぎて外耳道が傷付き炎症を起こしている。
そして、腫れ上がって耳の穴を塞いでいるので、左耳が殆ど聞こえないという結論に至った。
これは流石にヤバい、掻きすぎた…もうこれは自分ではどうしようもないと近所の耳鼻科へ向かった。
改めて考えると耳鼻科にかかるのはたぶん15年ぶりくらい。
一時期鼻血が頻繁に出ていたので、心配になって地元の耳鼻科に行ったのが最後。
幸いなことに今回行った耳鼻科はガラガラだった。受付で問診票を記入して提出すると、すぐに呼ばれた。
看護師さんに指定された誰もいない診察室に入ってしっかりとした椅子に座って待つと、少ししてお爺ちゃん先生がゆっくりと歩いてきた。
「左耳が痛くて、ほとんど聞こえませ、、、」と伝えるとすぐさま器具で左耳を覗き込んだ。
「ああこれは。。掻きすぎたかい！」
「はい、ちょっとだけ」←大嘘
「ふふんwじゃあ次右ねー」と右耳も確認された。
「うん。何もなってない右耳と比べると一目瞭然で腫れてるのがわかる。これは治すのに時間がかかるよ」
「あと、一応症状名は中耳炎ね」
「えっ？中耳炎？」
「あっ、外耳炎ね。外耳道が炎症起こして腫れていて耳の穴を塞いでいるから聞こえないんだ」
でしょうね！！と声を出さずにツッコむ私にお爺ちゃん先生からある宣告がされた。
「外耳炎を治すにはね、もう一生耳掃除しないこと」
!!??
一生……だと？治るまでとかじゃなくて
あの気持ちの良い耳掃除が一生できないなんて、、、でも確かに耳の汚れは自然に出てくるから掃除は必要ないと聞くし、この地獄の痛みを味わうなら一生やらなくても良い、、、いや、やはり耳掃除は捨てがたい、、、
と心の中では葛藤がありつつも、「はい、、、わかりました。」と空返事をしてやり過ごそうとした瞬間、
「わかったかい？」とまさかの念押しされた。
明らかな外耳炎を中耳炎と言い間違えるお爺ちゃん先生が言うことならこれは守らなければいけないと心から思った。
だからこの2回目の問いには「はい！わかりました」と力強く返事をし、お爺ちゃん先生と固い約束を交わした。
そして、耳に入れる薬いわゆる点耳薬と飲み薬の抗生物質を服用して様子を見て、1週間後また見てもらう運びになった。
その後点耳薬と抗生物質を使用してから2日で最悪の状態からは抜け出すことができた。やや聞こえにくいものの、痛みは殆どなく、めまいと頭痛もおさまった。
3日目以降は大きな向上はない物の、徐々に治っていっているのがわかった。
7日目にはやや違和感がある物の、痛みは全くなく、音も普通に聞こえる状態まで回復した。
この一週間は耳掃除を全くしなかった。点耳薬を塗るのに綿棒を使っただけ。お爺ちゃん先生との約束通り耳掃除はしていない。
そして、一週間経って診察を受けに再び耳鼻科に向かった。
受付を終えて今回も誰もいない診療室へ通されると、1分ほどしてお爺ちゃん先生が登場した。
「はい、こんにちは。」
「こんにちは！」
「どんな感じだい？」
「はい！痛みは無くなりました！音も普通に聞こえます！」
状態を伝えた後、左耳を見てもらう。「ふむふむ。まだ腫れてるなぁぁ。まだ完全には治ってないね。」
最悪の状態から脱して回復しつつあるものの完治はしていなかった。
「また一週間後くらいに見せにきて欲しいなぁ」
「はい！わかりました」としっかり返事をするも、内心は「もう来んでええやろ」と思っていた。
ほぼ治ったし、掻きむしらない限り大丈夫。もう一回に来るのはかなり面倒。同じ轍を踏む男ではなーーーーーい！！！
その後、ちょっとだけのつもりで耳掃除を再開させた私は結局しっかりと力を入れて耳掃除をしてしまい、再び外耳炎になってしまうのであった。しかも今度は両耳。